国産花粉の安定供給へ 採取効率化の動き

花粉の採取適期を推定するシステムの試作版。スマートフォンなどで下付量のピーク日を確認できる(電気興業提供)
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国産花粉の安定供給へ 採取効率化の動き

主に梨の授粉に使われてきた中国産花粉の輸入停止を機に、果樹花粉の自給強化が課題に浮上している。花粉採取の効率化へ、国内では花粉の採取適期を判定するシステムの開発や、花蕾(からい)採取機に適合した樹形の研究などが進む。産地の枠を超えて花粉を広域販売する“花粉ビジネス”の立ち上げを探る動きもある。

適期判別AI推定精度9割

 鳥取大学などでつくる花粉採取・受粉技術開発コンソーシアムが、1月下旬に開いたシンポジウムで、こうした報告があった。

 通信アンテナの製作などを手がける電気興業(東京都千代田)が開発を進めるのは、人工知能(AI)を利用して梨花粉の採取適期を判別するシステムだ。定点カメラで捉えた範囲から取れる花粉の合計量を、9割ほどの精度で推定できる。実用化を見据え、春からシステムの精度を確かめる試験に入る。

 園地の定点カメラの撮影画像から、開花ステージを判別して花粉量を推定する。花粉量は開花ステージごとに異なるため、各ステージの花の数から花粉量を計算する。AIに大量の花の写真を学習させるなどして、開発した。気象庁の予報気温データを組み合わせ、花粉採取の最適日を予測することも可能だ。

 農家がスマートフォンなどで、定点カメラの写真と、花粉量のピーク時を確認できる仕組みを想定する。他の樹種への転用も検討していくとする。

採取機普及へ 最適樹形模索

 花粉の精製には、園地で花蕾を採取する必要がある。埼玉県農業技術研究センターは、効率が良い自走式の花蕾採取機の普及を見据え、同機に合った樹形や作業体系を探る。

 同センターによると、同機を使った場合、純花粉1グラム相当の花蕾採取にかかる時間は、手作業の場合に比べリンゴでは120分の1、梨では27分の1などと大きく短縮できる。花粉の採取適期は3、4日間ほどと短いこともあり、機械で作業を迅速にこなす意義は大きい。

 同センターは、枝が機械にぶつかって折れるのを回避するため、枝の途中で切る「切り返し」の長さは20センチ以内にする必要があるとする。一方で、切り返しが20センチ以内だと脇花芽の着生率が下がる可能性があるため、脇花芽が得られる台木や品種の研究も必要とする。

 脇花芽の着生促進や徒長枝の抑制には、植物成長調整剤のパクロブトラゾール剤が有効とも指摘。花粉採取専用樹で使える。梨「ネパールミノルC」での分析では、新梢(しんしょう)の発生角度によって採取効率に差はないため、誘引処理は必要ない。

生産から販売“ビジネス”に

 国産花粉は多くの場合、流通が産地内にとどまるが、それを広域的に販売する“花粉ビジネス”が成り立つかどうか、分析を進めているのが鳥取大学だ。

 同大学の調査によると、国産花粉の価格は多くの場合、輸入品を参考にしている。一方で輸入品は、海外産地での果樹の病気の影響などで価格が不安定になる例もある。安定供給には、国内で花粉産地や市場を形成する必要があるとする。

 花粉の広域流通には、専門の事業者が花粉採取に特化した園地を運営して、販売するといったことが想定される。こうした事業が成り立つかどうか見定めるため、同大学は、国産花粉の需要や供給の実態把握などを進める必要があるとみる。(南徳絵)

(日本農業新聞2025年2月3日付「ニュースあぐり」)

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