どうする 花粉自給① 輸入停止で確保難しく
中国産花粉の輸入停止を受けて課題となった梨やリンゴの花粉自給に向けた研究について、鳥取大学農学部准教授の竹村圭弘氏に解説してもらう。
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梨やリンゴ、スモモ、サクランボなど多くの果樹の栽培現場では春先に人工授粉作業が必要となる。これは、これらの樹種が自身の花粉では結実に至らない「自家不和合性」という性質を持つからだ。人工授粉に使う花粉はあらかじめ他の木から採取することになるが、受粉直前の繁忙期に脚立に上り大量の花粉を集める作業は、生産者にとって大きな負担だ。そのため、近年は海外からの輸入花粉で授粉作業をする生産者が増えていた。輸入量は梨の場合1トン近く輸入された年もあり、国内の生産者の約3割が活用していた。
なぜ「活用していた」と過去形なのかというと、2023年8月30日付で中国からの梨とリンゴの花粉は輸入停止となったからだ。中国で重要病害である火傷病の発生が確認されたことに起因する。火傷病は、感染した木が火にあぶられたような症状を示し、病斑が主幹を取り巻くことで木全体が枯れることもある。病斑から細菌泥が漏出し、蜂などの昆虫や風雨によって伝搬され、罹病(りびょう)した花の花粉が昆虫により健全な花に運ばれ感染する場合もある。火傷病菌を根絶できる有効な防除方法は確立されていない。万が一、罹病樹が確認された場合は伐採による防除が必要となり、感染植物から半径500メートル(約78・5ヘクタール)以内が警戒地区となる。
梨花粉の輸入先は中国一強だったため、24年の春先に産地では急きょ、国内で花粉を確保することが余儀なくされた。しかし、急に花粉採取用の木を植えることはできず、植えてからも安定して花が咲くまで3~5年かかる。そのため、通常の栽培体系では冬に終わらせる剪定(せんてい)作業を春先のぎりぎりまで遅らせ、切り落とした枝を水挿し加温することで、そこに花を咲かせ花粉を採取する試みも行われている。国内で過剰に採取された花粉は輸入花粉の数倍以上の価格で売買され、多くの生産者が花粉不足で大きな弊害を受けている。
たけむら・よしひろ 1982年、鳥取県出身。鳥取大学農学部准教授。博士(農学)。「輸入花粉に依存しない国産花粉の安定供給システムの開発」「花粉採取と受粉作業の省力化を可能にするスマート農業技術の開発」の両プロジェクトで研究代表を務める。
